方向音痴で地理感覚が皆無、でも『ブラタモリ』は好きなミステリ作家・天祢涼です。小説を書くとき、舞台となる建物や地域の見取り図は考えますが、考えるだけでいい加減なことが多いです。年内発売予定の『銀髪少女VS.××人間(仮)』はとある施設を舞台にしたので、面倒だなあと思いつつ読者さんに楽しんでもらうため、マップを考えながら書きましたが。
そんな感じなので、地名は架空のものにしてしまう方が好きです。これだと制限なく、自由に書けますからね。
しかし『希望が死んだ夜に』の舞台は神奈川県川崎市。実在の地名を使っています。自分の小説では初めてのことです。
当初は、本作もこれまで同様、架空の地名にしていました。が、第一章を書き上げても、どうにも気持ちが乗らない。最後まで書ける気がしない。原因をいろいろ考えた結果、「劇中で現実の制度や社会情勢について触れているのに、地名が架空だから食い合わせが悪いのでは?」という結論に達しました。
そこで舞台を、(自分が住んでいるから取材しやすい)川崎市にすることに決めて、書き上げた第一章を大幅改稿。探偵役の刑事が多摩警察署勤務という設定にしたので、描写を厚くするため、用もないのに足を運んだりしました(ほとんど不審者)。そのせいで時間はかかりましたが、一気に書きやすくなりました。こういう体験は初めてで、おもしろかったです。
なお、第二章以降も、夜の新百合ヶ丘駅を描くためにレイトショーを観た後で駅前を徘徊したりもしました(やっぱり不審者)。
ただし、実在の地名を使ったものの、あくまでフィクション。登場人物にもモデルはいません。その点はご了承くださいませm(_ _)m
ちなみに、今後、自分の小説ですべて実在の地名を使うかというと、そんなことはなさそう。『銀髪少女VS.××人間(仮)』の主人公・音宮美夜は「10代で銀髪で警視監の探偵をやっている少女」というありえない設定なので、新宿や渋谷をうろつかれても違和感がありますからね。小説のタイプによって変えていくことになると思います。
神奈川県川崎市が舞台の『希望が死んだ夜に』は文藝春秋から好評発売中です。
神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生の冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたものの、「あんたたちにはわかんない」と動機は全く語らない。なぜ、美少女ののぞみは殺されたのか。二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がってくる。
「キョウカンカク」でメフィスト賞を受賞し、『葬式組曲』が本格ミステリ大賞候補や日本推理作家協会賞(短編部門)候補となった著者による、社会派青春ミステリ。
文藝春秋のサイトより