『議員探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ』の発売日(3月15日)が迫っている天祢涼です。
現在、続編の『都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ』のゲラをチェックしております。タイトルだけで一作目のラストでなにが起こるかおおよそわかるという、実に読者フレンドリーな作品です。もともと2作目を書く予定がなかったので、こんな形になりました。
そんな無計画な作品が文庫になるというのは、不思議ではあるものの、ものすごくうれしいです。
そして無計画な割に、読み返してみると結構おもしろい(笑)。3年以上前に書いたので内容を忘れていることもあって、「これ、伏線だったのか!」と新鮮な気持ちで驚けます。やるな、3年前の天祢涼!
反面、「いまならこんな書き方はしないな」という箇所もありますけどね。
そんな『都知事探偵』の単行本版に、一点ミスがあったことを、校閲さんが見つけてくれました。
珍しい役職・儀典長
『都知事探偵』第四話のタイトルは「外交」。漆原都知事と秘書の雲井が、ある国の王女さまをお迎えするのですが、あろうことか雲井が××にされそうになる、というドタバタ劇です(ちゃんとミステリもしてます!)。
この話に出てくるのが「儀典長」。外交全般を担う、外務省と東京都にしか存在しない役職です。地方自治体の中でなぜ東京都にしか存在しないのかと言えば、外交行事が多いから。日本の首都だけに、外国の要人をたくさんお迎えしなければならないそうです。
この蘊蓄を知った当時の天祢涼は興奮して、「儀典長を出すしかない!」と判断。劇中に「浅村」という儀典長を登場させました。
ところが、です。
『都知事探偵』が刊行された2014年9月時点で、なんと東京都における儀典長という役職は廃止になっていたのです。
スケジュール的に直せなかったかも……
現在、東京都では「儀典長」に代わって「外務長」という役職が置かれています。職務内容は儀典長と似たようなもののようです(ちなみに外務省には「儀典長」がそのまま残っている)。
ということは、浅村「儀典長」というキャラクターは存在しないことに。浅村「外務長」としなければならなかった。ああ、刊行前に直すべきだった……と言いたいところですが、話はそう簡単ではありません。
問題は、儀典長が廃止された時期。
校閲さんが見つけてくれた資料によると、儀典長の廃止が報道発表されたのは2014年7月。『都知事探偵』発売のわずか2ヵ月前。とっくにゲラになっていて、校閲さんの目も通っている段階です。
この時点で儀典長の廃止に気づいていたとしても、修正が間に合ったかどうか、微妙なところです。なにしろ、1ヵ所か2ヵ所ならともかく、雲井が何度も「儀典長」と呼んでますからね。雲井の一人称で語られる話なので、地の文でもずっと「儀典長」と書かれています。
真面目すぎるよ、雲井! 地の文くらい「浅村」と呼び捨てにしろよ! ……いや、いまさら言っても仕方がないのですが(^_^;)
フィクションだし、下手に修正してもっと大きなミスが起こっても困るし、廃止されたと知っていても、単行本版では「儀典長」で通した可能性が大です。
時代を反映させるのは難しい
小説で固有名詞を使うときは本当に気を遣うし、担当さんによっても見解が分かれるところです。
某社の担当さんは「固有名詞の使用はできるだけ避けるべき」という考え。「LINEが届いた」も「『SNSでメッセージが届いた』にした方がいい」というアドバイスをもらいました。
一方、他社のベテランさんは「いくら時代性に配慮しても限度があるから、気にしすぎない方がいい」という考え。「LINEが届いた」も「現代の空気が反映されているからママでいいと思います」というアドバイスをもらいました。
どちらが正しいかはわかりません、というより考え方が違うだけで、どちらも正しいのでしょう。
ちなみに『キョウカンカク』も、メフィスト賞投稿時は「インターネットに接続できるタイプのケータイ」という単語が出てきましたが、スマートフォン全盛のこの時代、そんなものは当たり前。文庫にしたときは表現を修正しました。そのスマートフォンだっていつか死語になるでしょうから、あまりこだわりすぎても意味がないのかな、とも思います。
かように小説家にとって、時代に即した固有名詞を扱うというのは難しいものなのです……うん? 儀典長から話が逸れてる上に、なにを書きたいのかわからない? テーマがぼやけてる?
当たり前じゃないですか! ミスを認めつつ、話をごまかしてるんだから!!
浅村さんが儀典長から外務長にジョブチェンジした『都知事探偵・漆原翔太郎 セシューズ・ハイ』は、『議員探偵・漆原翔太郎』からそれほど間を置かず発売です。
by 天祢涼(あまね りょう)